藤井風は地上に舞い降りた音楽の天使【武道館ライブレポ(1st)】
野暮だ。
あの伝説のライブを現地で目の当たりにしてしまった身からすれば野暮であることはわかっているけれど書く。
書く意図としては、この溢れ出す感情を整理するためとこのレポによって藤井風をまだ知らない人、藤井風を知っているけどライブに行くまでではないと思っている人に向けてそれはもう超ドデカ感情で書く。
コロナ禍に敢行したライブのリアル、武道館で見た情景や人々の静かな熱気と想い、そして、藤井風から感じた愛と信念を、現地で体感した自分が全く推敲せずに興奮のままに書き連ねていこうと思う。
(以下、セトリネタバレを含む)
2020年10月29日(木)『Fujii Kaze "NAN-NAN SHOW 2020 " HELP EVER HURT NEVER at 日本武道館』が開催された。
僕はこの日をなによりも待ち望んでいた。藤井風自身がYouTubeにアップをしている再生リストを夜な夜な流して、子供の頃から現在に至るまでの成長の過程を何度も観ていた。
1stアルバム「HELP EVER HURT NEVER」も何回聴いたかわからない。こんなにも繰り返し通しで聴いたアルバムはないというほど聴いていた。親の顔より藤井風の目を閉じた顔(アルバムジャケット)を見ている。
そして、2月終盤にコロナウイルスが日本でも猛威を奮い、行く予定だったライブが中止や延期になったため、コロナ禍で初めて行くライブが藤井風の武道館ライブということになる。
そんな背景もあり、当日は朝起きた瞬間から緊張していた。緊張しすぎて何故かお風呂も2回入った。恋か…?約半年ぶりのライブ。コロナ禍でのライブ。それも武道館。初めて生で見る藤井風という人間。ピアノパフォーマンス。考えれば考えるほど胸の鼓動は高鳴っていた。シャンプーの匂いが消えないうちに早く会いに“風”が吹いても…。恋か…?
武道館に着いた。
武道館の荘厳な雰囲気はいつみても別格だ。数多くのアーティストが武道館を一つの到達点として、神聖なものと捉える意味が理解できる。
そんな武道館に、藤井風は5月にメジャーデビューをしてたったの5ヶ月でたどり着いたのだ。凄すぎる。
入場は厳戒態勢で17:50と18:15の2部に分けて行われていた。観客はソーシャルディスタンスを意識して待機をし、現地スタッフのアナウンスにマナー良く従っていた。心なしか現地スタッフからはライブを成功させるという並々ならぬ闘志を感じた。
今回、チケットの都合上ペアでの参加が難しく、ソロでの参加が多かったため、武道館前の写真を撮影するのに初対面同士で声を掛けて撮り合っているのが印象的だった。僕はその光景を(それってHELP EVER HURT NEVERやん…?)とマスク越しに微笑ましく見守っていた。
しばらくして18:15の回の案内がきた。武道館の階段を上るたびに鼓動が速くなるのを感じる。会場に入ると、席は1席ずつ開けて用意されていて、ステージに目を運ぶとど真ん中に推定20×20mはあろう立方体のブラックボックスが不可思議に設置されていた。
GANTZの亜種………………?
今回の武道館公演の総合演出は山田健人監督。「優しさ」や「キリがないから」のMVを撮った新進気鋭の監督だ。
このブラックボックスを使って何をするのだろう…?ネギ星人と戦うの…?イリュージョンとか始まらないよね…?それともCUBE(映画)始まる……?と色々考えを巡らせ興奮が止まらなかった。
開演までの間は、今や常套句でもあるHPに記載されている藤井風の紹介やエピソード、観客へのライブ案内がDJ飯室大吾さんによるラジオ形式で会場内に流れていた。
ふと、ここで違和感に気付く。
初出の藤井風エピソードやDJのウケを狙ったトークが出ても、一切歓声や笑い声が起きないのだ。演者であれば数日寝込むレベルだ。
それもその筈。
本公演は歓声、発声禁止。歓声に代わるものは拍手のみ。言葉を話せない。このように、ライブの意義が問われる制約のなかで今回の武道館ライブは行われたのだ。
ひとしきりアナウンスが続き、ディズニーランドのアトラクションが始まる前のような高揚感のある演出でブラックボックスに開演開始のカウントダウンが映し出される。僕はその間、目を閉じて呼吸を整えていた。先日寺で学んだ禅の精神を思い出してただひたすらに呼吸を整えていた。
スゥ~~~~……………
フゥ~~~~……………………。
スゥ~~~~……………
フゥ~~~~…………………ウッ!
苦しい。マスクして呼吸整えるの苦しい。
鬼滅の刃、この時代じゃなくて良かったな、鬼殺隊、全集中できなくてこんなんじゃ鬼に勝てないじゃん…。
と、くだらない想像をしてたらカウントダウンが0:00になる。来る。ブラックボックスは華やかに色を変え、モニターとしての役割を果たしていた。オーケストラによる壮大な「帰ろう」のインストが流れて、ブラックボックスは天井に上がっていき、グランドピアノが姿を表す。ついに藤井風をこの目で………あれ?藤井風がいない。グランドピアノの先に藤井風がいるはずなんだけど、ちょうど座っている椅子部分が機材の柱に隠れて顔が見えない。いま柱いらないんだけど!!!!!鬼滅の刃の話、もうさっき終わったんだけど!!!!!!!!!!!
自分の席からの目線が機材の柱にちょうど被るという哀しい事実を余所に、藤井風のピアノの弾き語りは始まった。
約7000人いるとは思えないとても静かな空間のなかで、鍵盤の一音一音が丁寧にひかれる。今まで音源で聴いていた音とはまるっきり異なり、会場内に響き渡る旋律は生きているようだった。そして、藤井風の第一声を耳にした瞬間、体中に衝撃が走る。心の奥に秘められた心情を刺激して感動や共鳴を与えることを「琴線に触れる」と言うが、まさに琴の糸が美しい音色を発するように、藤井風の力強く奥深く浸透する歌声は心を、身体を震わせ、言いようのない多幸感に満たされる。
素晴らしい演出とともにショーが幕を開けた一曲め。
「おどるポンポコリン」
YouTubeで藤井風の存在を知らしめた通称「アダルトちびまる子さん」だ。動画のように鬘もちびまる子に扮した服装もしていない。藤井風が茶目っ気を出さなければもうただのアダルトアダルトさんだ。世界で一番格好良く「ぴ~ひゃらぴ~ひゃら」を歌うんじゃないよ。幕開けの荘厳な雰囲気は一曲めの選曲によって一気に和らいでいくのを感じた。
流れるように2曲め。
「Close To You」
『HELP EVER HURT NEVER』DISC2/カバーアルバムにも入っているThe Carpentersの名曲だ。この曲はカバーの中で最も聴いている曲で、イントロが流れた瞬間に瞳が潤うのを感じて、「Why do birds…」とブレスを交え優しく包み込むように歌う藤井風の表情をみてさらに涙ぐんだ。目を閉じたら涙が溢れてしまうから瞬きをしないようにしていた。
ちなみにこの時から僕はもしもの時のためにとバードウォッチング用に買っていた双眼鏡を使用していたので藤井風の表情がくっきりと見えていた。双眼鏡のおかげで鍵盤を滑らかに移動する指の動きでさえ見えていた。みんな、双眼鏡マジで良いぞ。君はついてこれるだろうか、視力8.0の世界に……。
涙で双眼鏡のレンズがぼやけたのをシャツで拭っていると演奏が終わる。
精一杯に拍手を送っていると、藤井風が椅子から立ち上がり、東西南北の観客に丁寧にお辞儀をする。実物、めちゃくちゃにデカい。デカいというより顔が小さすぎて9頭身くらいある。写真より彫りは深いしもう出立ちはダビデ像。何よりもTシャツ、ジーンズ、スニーカーの飾らない風貌でさえも只ならぬオーラとスター性があって、本当に藤井風は人前に立って表現をする使命を与えられた人間なのだろうとひしひしと感じた。
MCはいつもの口調でさっきまでパフォーマンスしていた人は誰だったんだ?と思うほどの変わり具合だった。以前、ラジオで言われていた「憑依型」というのも頷ける。
席の関係でピアノを弾く後ろ姿しか見えない人もいるため、360°回るステージを設置してもらったと会場にされた配慮をスタッフに感謝を込めて語り、3曲めに入る。
「Just The Two Of Us」
クリスマスバイブスを感じるということで歌われた曲。こちらはYouTubeにカバー動画があり、再生リストで夜な夜な聴いていた。藤井風のカバーからBill Withersというアーティストを知り、生演奏を体感してさらに好きになった気がする。というかアーティストに対して稚拙な表現だとは思うけれど、あまりにも歌が上手すぎる。ピアノ音と一体化してもう藤井風自身が奏でているようにも思えた。
演奏終了後、マイクなしで観客全体に言葉を投げかけて、拍手を扇動する藤井風。観客の拍手の音を最高潮まで引き上げた体制の流れで鍵盤になだれ込むように4曲め。
「丸の内サディスティック」
ジャンピングピアノからのこんなにイケ散らかした「報酬は入社後」聴いたことない。僕が社長だったら初任給80万円あげてる。藤井風の凄いところの一つにカバー曲をカバー曲だと思わせない凄さがある。椎名林檎の世界観を意識なく吸収して、もはや藤井風の曲のようになってしまうから恐ろしや九段下サディスティック。
藤井風の歌声で飛んじゃってると、藤井風が「アルバムは聴いてくれていますか?」と観客に質問を投げる。本来ならば「聴いてるよ!」等さまざまなアンサーが飛び交っただろうが、歓声は禁止。観客皆、首が取れるほどの勢いで首を縦に振りモーションで答えていた。僕も(ンンンーーー!)と声にならない声を出して答える。そして、聴き倒したあの曲のコード進行を奏で始める。
感慨深い5曲め。
「特にない」
まさか「特にない」がアルバム曲一番手だとは思わなかった。でも公演を終えた今であれば理解が出来る。この曲は同じコード進行が多く、バンドサウンドになると異なった印象を持つ曲になってしまうから弾き語りにしたのだろうと思った。
藤井風がイントロのフレーズを繰り返しながら観客に指パッチンをしてほしいとお願いする。自分では指パッチンは出来ないと言うところがズルすぎる。あんちゃん確実に出来るじゃろう…。でも君が望むなら僕は指を摩擦ですり減らしても指パッチンをし続けよう…永遠(とわ)に…。
ここで僕はある心情の変化に気づく。
ライブは自分のペースで楽しみたいため、今までのライブで何か振り付けや手拍子を頼まれても実際にやることはほとんどなかった。恥じらいももちろんあるけれど、前提として音楽は一人ひとり楽しみ方が違うという思念がある。だから無表情で佇んでいても良いし、アーティストがお願いしているからといって周りの人が強要するのもそれはアーティストの意に反していると思っている。
今回も、一音一音を全身全霊で聴こうと直立不動でいるかと思ったがどうだ…
僕は、心から楽しんで満面の笑みで指パッチンをお届けしていた。
この時、また思った。
藤井風というアーティストは本当にすごい。声も出せない状況で、こんなにも心を揺さぶり、動かしてしまう。彼の精神が乗り移ったかのように、心の底から“音”を楽しんでしまう。藤井風が纏った空気がそうさせるのか、藤井風の音楽に共感をしてこの空間に集まった人々の静かな熱気は心地良いグルーヴを生み、自分自身の殻を脱いで浄化されていくようだった。
「特にない」のMCは常々藤井風が伝えている「足るを知る」の精神のことだと思った。曲イメージ通りのセピア色の照明に照らされて、変わり映えのない一定の旋律で満たされていくように、刹那に奏でられ終わる演奏を心に留めていた。
あまりにも時間の流れが早いと思いつつ6曲め。
「風よ」
藤井風の「祈り」が顕著に出ている曲だ。MCでも、祈りがなければ今回の武道館のようなステージも立つことが出来ないと赤裸々に語っていた。双眼鏡で歌う表情を見ていて思ったけれど、藤井風の内に秘めた生命力の強さと、それに相反する心の繊細な弱い部分がさらけ出されているように感じた。同時に、バラード曲のブレス音を精密に拾う武道館の音響に感動をしながら演奏が終了する。
東西南北の観客に深くお辞儀をして特に派手な演出はなくステージから降りていく藤井風。拍手は彼が見えなくなるまで鳴り止まず、放心状態のまま公演の第一部が終了する。
ここからが通常と異なるライブ形式。サッカーと同じく45分のパフォーマンスの後の15分休憩。所謂「換気タイム」が発生した。
会場の空気は万に近い人数がいる空気とは思えないほど過ごしやすい環境だったと思う。そもそも観客が激しい動きも発声もしていないため発汗がなくて空気が綺麗な状態だったってのも要因としてはあると思うけれど、人知れず会場内を循環して調整しているスタッフの人たちのおかげだと思うと涙ちょちょ切れた。
2020.10.29 (木)Fujii Kaze "NAN-NAN SHOW 2020 " HELP EVER HURT NEVER@日本武道館
【1st ステージ】
ピアノ弾き語り
1.おどるポンポコリン(B.B.クィーンズ cover)
2.Close To You(The Carpenters cover)
3.Just the two of us (Bill Withers cover)
4.丸の内サディスティック(椎名林檎 cover)
5.特にない
6.風よ
【換気タイム】
…そして、このレポもライブ同様に一旦休憩に入ります。
タイトルの(1st)で気付いた人もいると思うけどまだ続きます。長くない?仕事だったら絶対怒られるやつだよね?いや、ライブレポートだけだったら多分この辺りで終えられていたはずなんだ!でも最初に言ったはず、何も推敲せずに興奮のままに書くって…。これはライブレポートであり僕の心情レポートでもあるんだ。だから僕のお風呂2回入った銀河一いらない情報もいるんだ。
それにこの興奮を、興奮をよ…まだ伝えきれてねえ!頼む!まだオラに書かせてくれ!
(このブログの)換気タイム 言うとりますけどmore…。