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草野マサムネは本当に実在するのか

この手記は、スピッツ草野マサムネが実在する人物だとはどうしても信じられず、真実を知るために初めてスピッツのライブに行き、初めて草野マサムネの観測に成功した一人の男の記録である ──────。

 

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12月15日(日)、スピッツのツアー「SPITZ – JAMBOREE TOUR 2019 MIKKE 」を横浜アリーナに観に行った。

会場に着いたはいいものの、やっぱりまだ信じられなかった。これからスピッツの演奏を、草野マサムネの姿を目の当たりにして同じ空間で感じられることを…。

と言いつつも、5年程前、フェスでスピッツのライブを一度観たことがあった。ただ、その時は人が溢れすぎて会場の一番奥でモニター上の草野マサムネの姿をなんとか確認できたくらいだった。モニター上で観測したため、もちろんこんなのでは信じられるわけがない。僕はTV特番で夏にやる「戦慄!本当にあった恐怖映像100選」がすべてフェイクであることを知っている。なめないでほしい。それに、フェスあるあるで曲中も話し声が聞こえたりする喧騒の中で、演奏も集中して聴けてはいなかった。


今度こそ…………………………。

今度こそは……………………………………………。

 

僕は闘志を燃やし、重い足でぬかるむ道を来て、トゲのある藪を掻き分けて、食べれそうな全てを食べて、ずっとスピッツのライブの好機を伺っていたのだ。

これから何が起こるかわからない。観測したら石化するかもしれない。直前に君のおっぱいトラップが仕掛けられてるかもしれない。最悪僕は死ぬかもしれない。そんな不安を抱えてその時をただひたすらに待つ。

 

 

フッ……

 

横浜アリーナの会場は暗転をして、遂にその時がきた。沸き上がる歓声、熱気立つ空間、会場のボルテージは最高潮になる。

そして、聞き馴染みのある曲のイントロの生演奏がはじまり、光線の演出がステージを照らす。

照らされたステージ上には、僕が生まれる前から演奏し続けているバンドの姿が、そのフロントマンとして歌い続けている草野マサムネの姿が確かにそこにあった。

 

 

 

 

 

 

………………草野マサムネって本当に実在したんだ……………………………………………。

 

 

 

 

演奏にシンクロするように光線の演出が駆け巡り、幻想的に眩く照らされる観客席。

断続的な光線を浴びて、現実と夢の狭間のような不思議な感覚に陥りながら何度もステージ上の草野マサムネを目をこすって確認した。

夢の中にいるような感覚も相まって、肉眼で捉えた草野マサムネがまだどうしても信じられなかった。もう僕の中では草野マサムネは伝説の生物、ユニコーンと同義だ。ファンタジーだ。たしかにそこにいるけど実は空想なんじゃないか…。今プロジェクションマッピングの技術凄いし…。なんて考えて疑心のまま草野マサムネからの第一声を息を呑んで待っていた。

 

 

…………ぅ…………………?

 


生の歌声は想像していた以上の衝撃だった。

もう「ぅ」しか言えなかった。魔法のコトバは口にすれば短いって草野マサムネは言ってたけどもしかしたら「ぅ」かもしれない。

 

口からCD音源とかいうありふれた話じゃない。

 

口から芸術だった。

 

国は一刻も早く草野マサムネの声帯を国宝に指定しないといけない。

桜を見てる場合か、草野マサムネの声を聴く会をしろ。

 

透き通ってどこまでも伸びる儚くも力強い歌声を全身で感じ、ようやく僕は草野マサムネが本当に実在する人物だと受け入れることが出来た。

 

もう、ファンタジーじゃない………。

もう、完全に見っけたんだ…………。

 

そんな感動の最中、繰り出される演奏技術の凄まじさを思い知る。

楽器のことは15才の時にギターのFコードが弾けずコード進行もよくわからず「楽器弾けるやつ脳みそ2個あるんか!!!!!!!」と挫折した人間のため何も言えることはないけれど、これだけはわかる。めちゃくちゃ上手い。タイトに硬く刻む寸分の狂いのないドラム、そのドラムに重厚に乗せるテクニカルなベース、スピーディーで力強くかつ繊細なギター。リズム、音程の正確さが人間のそれじゃない。バンドサウンドの醍醐味として、CD音源にはない音のズレや歪みをライブで楽しむってのもあると思うんだけど、スピッツにはそれがない。完璧で、目の当たりにした全員を圧倒させる演奏クオリティ、もはや芸術作品をお届けしてくる。僕がFコードで挫折してなくて脳みそが2個あればもっと演奏技術のことを話せたかもしれないんだけど、もう無理。限界です。スピッツの生演奏はやばい。やばみの鬼です。

 


── 普段、スピッツの曲を聴いてる時にイメージする色の多くは青色だった。明るくはないけど暗くもない。海中で目を閉じて海上の空の色が瞼の裏側に映る色合いのような、そんなイメージ。でも実際に生でスピッツを聴くと、こんなにも色とりどりに変化するのかと驚いた。もちろん、ロック調の曲には赤色の照明が激しく使われたり、シック調な曲には青色の照明で儚さを表現したり、曲調によって演出効果として照明を使い分けているのは理解している。ただ、やはりその空間での感じ方は特別なもので、青色に感じていた曲が黄色や赤や紫や緑や白や灰色や黒に感じたりして、また新たな曲のイメージに出逢えた気がした。

同時に、記憶を反芻して、いつかの季節にどこまでも連れていってくれるスピッツのメロディには畏怖の念を抱くほどだった。

 

曲は流れるように展開され、瞬く間にライブ中盤のMCとなり、ここでスピッツのライブの真髄を知ることになる。

 

『腰や足は大丈夫ですか?

ずっと立ってるの疲れないですか?

疲れたら座ってくださいね。

動ける人は動いてください!

僕はまだ大丈夫!』

 

と言い、スクワットの動作をする草野マサムネ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

優しさふれあいセンターか?

 

 

 

 

 

 

 

ステージにいるのは優しさふれあいセンター職員の方ですか?

 

 

 

 

 

 

 

………………え、今自分、優しさふれあいセンターにいる?


今ステージの中心でお話しされている方は、どんな人にも優しさを与えて問題が解決した時の口癖が「優しいあの子にも教えたい。ルルル…」の優しさふれあいセンターのエースであり主人公の方ですか?隣にいるサングラスの方は普段は口うるさいけど、いざというときには真っ先にエースを助けて支える一番かっこいいタイプの上司ですか?またその隣に居る四方八方動き回っている方はエースのよきライバルで優しさの限界を超えるために日々鍛錬してるクレバーで少し癖のあるエースの同僚ですか?そしてエースの背中を見守っている方は、過去にやんちゃをしたけどある人物との出逢いで心を入れ替えてセンターを創設し、視野が広く全体を見渡すことに長けていてセンターにいる老若男女に好かれていて、あだ名は「仏様」のセンター長ですか?


で、このドラマいつから放送?土ナイいける?

おっさんずラブの後、いける?

 

Twitterトレンド、

#やさセン   #ルルルのおじさん

 

で埋められる?いけるか?OK?いくぞ!!!!

 

 

 

 

 

 

優しさふれあいセンターってなに?

 


なんやかんや言ってますが、僕が伝えたいことは、一瞬、本当にここはライブ会場か?と思うくらい草野マサムネのホスピタリティは凄まじいということです。一挙手一投足が優しくてお金払うレベル。前々からスピッツのMCについて噂には聞いてはいたけれど、ここまで優しさに満ち溢れてるとは思わないじゃん。もうサービス精神が「はい、これサービス!」と大根を持たしてくる人情味溢れる近所の八百屋のおばちゃんと一緒なのよ。もうこれ以上心をぬくぬくとさせるな。もうこれ以上LOVEを増幅させるな。

マサムネ……LOVE………………………。

 

そんなこんなでスピッツの世界に没入してあっという間に時と歌は駆け抜けて、もうアンコールになっていた。早い、あまりにも早すぎる。体感5分か?と感じているとラストのMCが始まる。

 


『このほわ〜な空間、いいですね。』

 


ふと、草野マサムネがつぶやく。

なんですかこの擬音語が似合いすぎる可愛いおじさんは…。と思い微笑んだ束の間、次の言葉で僕の感情のダムは崩壊した。

 

 

『この中の一人でも欠けてたらこのほわ〜な空間は作れませんでした。

 

だから一人一人に言いたいです。

ありがとうございました!

 

自分なんていなくてもいい…

なんて思うこともあるかもしれないけど…

いなきゃダメだからね!』

 

 

 

 

 

拝啓………。

草野マサムネ様…………………。

僕の墓石にこの言葉を刻んでくれや………………………………………。

 

 


きっとこの時、会場にいる全員が草野マサムネの言葉に感銘を受け、会場だけの話ではなくそれぞれの日常に置き換えて、ほんの少し心が救われたんじゃないかと思う。

ありきたりだけれどありきたりではない言葉を愛を持って言える草野マサムネという人間は本当に強くて優しい人間だ。無理強いではない、自然に優しく心の不安を掬い上げる。あまりにも自然に救われるものだからすぐには気付かない。さながら僕たちは草野マサムネにすくわれる金魚のようだ。スピッツという海で泳ぐ魚のようだ。

加えて、スピッツのライブで感じる心地よい空間は意図的に創り出されたものではなくて彼らの内面から滲み出る人間性が会場全体に浸透しているんだと気付いた。

10数年間、CDディスク、TVの中、イヤホンから流れる音でしか存在が確認できていなかったバンド、スピッツ。青春とともにあって、今も日常に溶け込むように様々な人々の心の拠り所を生成するスピッツ

目を閉じて、この空間にいれること、スピッツを全身で感じられていることに感謝して(きっと今日のことは忘れないだろう、日常の中で、また気付かないうちに救われているのだろう)と珠玉の演奏と歌声を耳にしながら物思いにふけっていると、優しさふれあいセンター職員のエースが口を開いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『みんなのまなざしがかわいいよ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

センター利用料、50000円で大丈夫でしょうか?

 

 

 

 

─── ライブが終わった。

心が浄化されたのか、翌日は月曜日だというのに鬱々しさが全くなかった。多幸感に包まれて、また明日も生きていこうと、そう決心ができた。

興奮冷めやらぬまま、コートを羽織り会場の外に出た。

こもった熱は冬の空気に解き放たれて、汗をかいたTシャツは、肌に纏わりついて離れてくれなかった。それでさえ、不思議と心地よさがあって愛おしく思えた。

優しい誰かの、『風邪をひかないように』という声が聞こえてくるようだった。


上を見上げると冬の夜空は澄んでいて、風をきった冷たい頬はなんだか気持ちがよかった。

もう少しだけ、もう少しだけとこの心地よい余韻に浸っていたかったけれど、1歩、2歩、歩き出して帰路に就く。

 

夢と現実の狭間から日常に戻った僕はこんなことを考えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


草野マサムネは本当に実在するのか…………?